2011年9月15日木曜日

バイトしてアリアス像を買う。

あの夏休みが終わって、再び東京での浪人生活が始まった。午前中は御茶美に通って(当時のオチャビは午前と午後の半日コースだった)午後はバイトという毎日だ。バイトはフィルムの集配である。バイクに乗って東京都内の写真屋さんを廻って現像や焼き増しのために写真屋さんに集まってきたフィルムを集めるのが仕事である。当時はフジフィルムのプリントセンターが調布にあり、集配所とセンター間で決まった時間にシャトル便があった。現代のようにデジタル撮影してDPEショップに行けば自動でプリントできる便利なシステムはなく、まったくのアナログ時代であった。バイクの帰りがシャトル便トラックの時間に間に合わない場合は翌日扱いとなり、写真屋さんからクレームが出る。だから、時間優先でバリバリに飛ばして帰ってくるのである。今でいうバイク便よりもはるかに荒っぽいバイトであった。
バイトの給料が入ると久しぶりにうまいメシを食い、残りを貯めて石膏像を買うことにした。今でもあるかどうか、新宿に地球堂という画材屋さんがあって、そこでは比較的程度のよいやつが安く手に入るという評判が学生の間にあり、そこで買うことにした。
さて、どれを買うかが問題であった。というのは、オチャビに行かない半日は自宅でデッサンをするのが常識だったので、友人間で石膏像を貸し借りするのである。人気の石膏像だと交換・貸し借りが容易だが競争も激しい。人気のない石膏像だとなかなか交換してもらえないというので、悩んだ末、アリアス=アリアドネを買うことに決めた。アリアスはギリシャ神話に出てくる貴婦人であり、一説には女神である。憂いを含んだ横顔に人気があり、石膏像のもとになった像はローマのカビトリーノ美術館蔵の大理石像であった。イタリア語でアリアーヌといったらしいが、日本ではなぜか片仮名の「ヌ」が「ス」に読み間違えられて「アリアス」として定着したらしい。その後「このアリアス像」は友人間を転々として、受験に協力(?)し、私の合格後、私の知人の娘さんが美大を受けるというので、その方に差し上げた。さて、その娘さんが合格したかどうかは定かでない。